覚めない微熱だけ、もてあましながら
みかがいる席に指をさし、ウェイターに言った。ウェイターは何も言わず頭を下げただけだ。
店内の真ん中には、グランドピアノが一台置いてある。ピアノの前、右横、左横には四人用の円卓テーブルが散らばるように配置されていた。
麻里は席に来て、どこに座ろうか考えていた。結果みかの横に座った。
二人がけの小さなソファだ。
「お疲れ~。どうしたの?」
「みか。お疲れ。ん~……どこに座ったらいいかわからなくて」
嘘だ。
“どこに座ったらいいのかわからない”
そんなことはあるはずがない。席は決まってないのだから空いている所に座ればいいだけの話。
“二人がけの小さなソファに、みかと並んで座る”
これも作戦のひとつだった。愛子を、向かえの席に座らせる。
それかもしくは……
愛子とまことが一緒に座れるかも知れない。もし、うまくいけば――
すると入り口付近の方から、さっきのウェイターのいらっしゃいませ!と言う声が聞こえた。見ると愛子がキョロキョロしながら立っている。みかは愛子が自分の方を見たのを見計らって大きく手を振った。