覚めない微熱だけ、もてあましながら
愛子の方を見ている――



愛子は、まことから目をそらした。もう、ずっと目が合ったままだ。

「決まった! ピザにする。麻里は?」

「ん~……何かここの店ってイタリアン系が多いんだね。カルボナーラにしよ」

「私もピザ。アンチョビの」

「よし決まりー」

みかはウェイターを呼び注文した。



とりあえずワンクッション置いたところで、愛子はまた、まことの方へと目を向けた。気がつくと、まことのピアノ演奏は二曲目に入っていた。切ない、悲しい系の曲だ。しなやかに流れるその旋律は、限りなく優しい。

まことは、その甘いマスクと洗練されたピアノで、聴く者の時間を忘れさせる。最も雰囲気のある男だった。



「ねぇ、愛子。まことのピアノ、気に入った?」

「えっ?」

突然みかに言われ、驚く愛子。

「愛子はさっきからずっとまこと君の方ばかり見てるよねぇ」

麻里も意味深な笑みを浮かべながら言う。

「まこと君のピアノ、癒されるよね」

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