TWILIGHT SLIDER
その瞬間、夕夜は“恋に落ちた”と実感した。

目の前の名前も知らない美しい少女に、自分は恋に落ちた。

夕夜は胸の音を躰の中に閉じ込めるように、そっと目を閉じた。

閉じた瞬間、浮かんできたのは少女の顔だった。

夕夜がそっと目を開けた瞬間、強い風が目の前を吹いた。

桜の花びらが舞い踊る中に、少女の姿はなかった。

風が少女を連れ去ってしまったのではないかと、夕夜は思った。

目の前で踊る桜の花びらは、まるで先ほどまで目の前にいた少女のようである。

「――もう1度、会えたらいいな…」

その花びらに話しかけるように、夕夜は呟いた。

もう1度、夕夜は空を見あげた。

青く透き通った空は、そんな自分を見下ろしていた。
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