TWILIGHT SLIDER
その年の冬、両親は離婚した。

母親は小さな華の手を引いて、寒い中を歩いた。

ついたのは、知らない街だった。

父親はおろか、誰も知っている人のいない知らない街だった。

「お母さん、頑張るからね」

そう言った母親は、翌日から働き始めた。

昼はパン工場で、夜は小さなラーメン屋で、休みの日は内職をして、母親は働いた。

休んでるところも見たことがなければ、グチをこぼしているところも見たことがない。

華は必死になって働いて、自分を育てる母親の背中を見ていた。

――わがままを言ってはいけない

必死で頑張っている母親にわがままはもちろんのこと、迷惑もかけてはいけない。

いつしか華の中に、そんな思いが生まれていた。
< 53 / 202 >

この作品をシェア

pagetop