だから君に歌を
身長はまあまあある方だろう。

いかにも爽やかぶった見た目をしたその男は見るからに千夏よりも若かった。

スタッフだろうか。
男はトレーナーにデニムというラフな出で立ちだった。
けれど、他のスタッフのように慌ただしく動き回る様子はなかった。

ただ、まじまじと食い入るように椅子に座る千夏を見つめている。

「…何?私の顔になんかついてんの」

男の無遠慮な視線にむっとした千夏は喧嘩腰に言った。

しかしそんな千夏の物言いに怯む様子も見せず、
また視線も逸らさずに男は首を傾げた。

「や、知り合いの妹によく似てるなぁ、と思って」

「はあ?」

千夏は一瞬ギクリとしたが、「人違いでしょ。兄貴なんかいないし」と
直ぐさま否定した。

男は「ふーん?」と、しゃがみ込んで千夏を見上げ、笑った。

「なに、なんなのあんた」

「…誰も兄貴だなんて言ってないよ?姉貴かもしんないじゃん?」

「なっ」

「やっぱね。名前といい、職業といい、顔といい、あんた、京平の、」

ガタリッ!

千夏は勢い良く椅子から立ち上がった。

全身から血の気が引いてゆく。
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