だから君に歌を
ちぃちゃん…

「今日、これ終わったらもう仕事ないの?」

「は?」

「ないならさ、ちょっと案内してよ。東京って全然来たことないし、それに話したいこともあるしさ」

冗談じゃない、

「嫌」

千夏はきっぱりと言い放った。

「何で?聞きたくないの?京平とちぃちゃんの話」

慎太郎の言葉に千夏たちの横を通り掛かったスタッフの一人がちらりと視線をこちらに向けた。

「うるさい!その名前を二度と口にしないで!」

思わず叫んでしまっていた。

がやがやとうるさかったスタジオ内が急にしん、と静まり返る。

慎太郎もキョトンとした表情でデジカメを構えたまま千夏を見つめた。

こんな所で京平のことなど、聞きたくもない。

兄がいることなんてバレるわけにはいかないのだ。

ましてや、
娘がいるだなんて、
そんなことバレたら千夏は終わる。

歌手として完璧に死んでしまう。

こんなところで終わるわけにはいかないのだ。
必死で手に入れたこの場所を失うわけにはいかない。

誰にも邪魔なんてさせない。
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