だから君に歌を
「私の前でも、他の所でも、誰にも言うんじゃないわよ。言ったら殺すから」

千夏は自分よりも頭一つ分背の高い慎太郎を睨みつけ、威嚇した。

睨みつけられた慎太郎からは笑顔が完全に失せ、
真面目な顔で千夏を見下ろしていた。

「何で?」

「何ででもよ。理由なんてあんたに関係ないでしょ」

「…隠してるの?二人のこと。どうして、」

慎太郎の問い掛けに千夏は鼻で笑った。

「どうして?ばっかじゃないの?邪魔だからよ。私の足を引っ張るしかない存在だからよ。いらないから捨てたの」

自分でも驚くくらい酷い言葉が次々に千夏の口から飛び出す。

「…そう、」

慎太郎は瞬きもせずに千夏を見て、
デジカメのシャッターを押した。

電子音の後に少し遅れてフラッシュが光る。

「なっ!」

「おーい、慎太郎何やってんだ。お姫様を勝手に撮っちゃいかんよっ!」

「あ、スンマセン」

千夏が抗議しようとすると、突然慎太郎の背後からさっきまで千夏を撮っていたカメラマンが顔を出した。

「あ、ごめんねー千夏ちゃん!こいつ、俺の弟子ってゆーか知り合いってゆーか。旅を共にした仲間なんだけどね、千夏ちゃんの撮影にどーしても来たいっつーから連れて来たんだけど、まだまだガキで礼儀がなってなくてねー。あ、でも女の子撮る才能はあるから許してやってね!」

酷く軽いノリの話し方でカメラマンは慎太郎の肩を抱き、千夏に謝った。

「やめて下さいよ細川さん。俺の専門は風景ですってば」

「なーに言ってんの。君が自分のお姉ちゃんを撮った写真集、かなり評判いいだろー。俺もあれにはびっくりだわ」

「…あれは例外ってゆーか特別。他の人を真剣に撮るつもりは今の所ないですから」

慎太郎はとんでもないことをさらりと口にした。
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