だから君に歌を
「おっと、こりゃすまん。煙たかったかな」

千夏の行動にカメラマンはおどけた様子で素早く煙草を携帯灰皿に押し付け、火を消したが、
狭い車内にはもう充分にヤニ臭いにおいが充満しており、
千夏はわざと大きく舌打ちをした。

そんな千夏の様子に慎太郎は楽しそうに笑い声をあげたので、
千夏はすかさず慎太郎を睨みつけた。

「黙れシスコン野郎」

「あれ?ブラコンに言われたくないんですけど?」

慎太郎はまだクスクスと笑い声をたてながら千夏に反撃を仕掛けて来た。

「え?千夏ちゃん男兄弟いたの?」

慎太郎の言葉にカメラマンが後部座席にひょっこり顔を向ける。

「なっ、いるわけっ」

「スタジオで君の目を見た瞬間に何か、通じるものを感じたんだよね、俺」

そう言いながら慎太郎はふいにカメラマンの方を振り返った千夏の顎を掴み、自分の方に顔を向けさせた。

カメラマンがヒュウっと口笛を鳴らす。
慎太郎はそんな冷やかしをこれっぽっちも気にする様子を見せずにじっと千夏の顔を覗き込んだ。


「その目、昔の姉ちゃんに似てる。だから京平も俺の姉ちゃんを放っておけないのかな」

「なっ」

「だから俺も君を放っておけないんだよね、たぶん」

狭い車内に慎太郎の穏やかな声が響いた。
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