だから君に歌を
「何?」

京平はむっとして香織を睨み付けた。

「もう千夏ちゃんを甘やかすのはやめたら?それって逆に残酷よ?」

「何のこと…」

「私が千夏ちゃんのこと嫌いってわかるくらいなんだから、千夏ちゃんの気持ちくらい気付いてるんでしょ?すっとぼけてるの?」

京平は頬に力を入れた。
テーブルの上の拳を握る。

「だったら何、千夏は俺の大切な家族だ。千夏の気持ちは、大切にする…」

「…とことんムカつくわね」

香織は不愉快そうにセミロングの髪の毛をかきあげると、言い捨てた。

「応えてあげられるの?あの子の気持ちに。してあげられるの?あの子の望むこと」

「俺は、千夏が望むなら、傍にいるし、ずっと一人でいる」

「は、くだらない。その程度じゃ千夏ちゃんも出てくはずだわ」

「なっ!」

「いい?あの子は京平が好きなのよ?とっても気持ち悪いけど、だから、京平が応えるっていうのは、京平が千夏ちゃんに恋人にするようなことをしてあげるってことなの。わかる?」

「…」

京平は言葉を失った。
香織が何を言ってるのかわからない。

千夏に、
恋人みたいに?

それって…

「できないのならいっそ冷たく突き放すのが彼女のためよ。あれだけ美人だもの、京平がいなくたってすぐに代わりの男が守ってくれるわよ」

言って香織はうんざりした顔でバイトに何か告げると、店の奥に引っ込んでしまった。

京平は香織がいなくなってもしばらくそこを動けずにいた。

「あの、ご注文は?」

怪訝そうにバイトの男の子が京平に声をかけたので、京平は慌てて店を出た。

まだ思考回路が正常に機能していない。

けれど香織のあそこまで強気な発言がはたしてただの憶測や想像だろうか。

だとしたら、
千夏は、
自分を…?

千夏はただ、
その境遇のため、
自分に家族の愛情を求める反面、
京平だけが幸せになるのを許せずにいるのだと、

ずっとそう思っていた。
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