だから君に歌を
「しばらくはどこかで静かにしてろ」

翔は悔しそうに言った。

社長と目が合う。

「君には期待していたんだが、すまないね」

社長の千夏を見る瞳には同情の色が滲んでいた。

どうして…?

どうして皆私から大事なものを奪うの?

千夏は事務所を出るとふらふらとあてもなく歩いた。

顔が見えないようにニット帽を目深に被り、
大きなサングラスをかけて歩くけれど、
時折自分を振り返る視線に千夏はびくびくしながら歩いた。

「あっ!あれって!」

人混みの中で突然大きな声がし、
千夏は思わず足を止めた。

辺りを見回すのも怖い。

誰も、見ないで…。

「嫌だ…」

千夏はその場にしゃがみ込みそうになる、
が、
そんな千夏の腕を引くものがあった。

「乗って、早くっ」

こそっと耳元で囁かれ、歩道脇に止まっていたタクシーに引きずり込まれた。
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