だから君に歌を
空港を出た瞬間に目の前に広がった灰色と白の風景に千夏は息を呑んだ。

どんよりとした灰色の雲に覆われた空が寒々しく、
地面や屋根、車のボンネットの上には白い雪が積もっていた。

「寒っ!!」

生まれて初めて見るたくさんの雪に感動する暇もなく、千夏は寒さに凍えた。

「寒いっ!なにこれ寒すぎ!」

隣に立つ慎太郎はしらっとした顔で自分だけちゃっかり黒のダウンジャケットを着込み、おまけに暖かそうな毛糸のマフラーをぐるぐるっと巻き付けて後ろで結んだ。

千夏はというと、
事務所から出て来たままの姿、

つまり、ニット帽にごく薄手のトレンチコートのみ。

ガチガチと歯を鳴らしながら千夏は慎太郎の腕を引っ張った。

「ちょっとあんた!自分だけ何その恰好!卑怯者!」

「え?何が?あ、ほら来たっ」

慎太郎は千夏の腕を振り払って駆けてゆく。
タクシーの並ぶ通路にシルバーの軽自動車が止まり、慎太郎がその助手席のドアを開いた。
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