だから君に歌を
夜になっても事務所や他のメンバーからの着信はなかった。

見捨てられたのかもしれない。と千夏は何度も携帯電話の着信履歴を確認しては憂鬱になった。

他のメンバーたちはこれからどうするつもりなんだろうか。

千夏が活動できないとなればもちろん翔たちだって活動休止だ。

デビュー出来て喜んでいたのは千夏だけでなく、
翔や晶だって同じだった。

音楽をやる理由や境遇はそれぞれ違っても、
目的を同じくして今日まで一緒に歩んできた仲間をも自分が巻き添えにしたのだと、
日が沈む頃になってようやく千夏は思い至ることができた。

これか先の身の振り方が全くもって考えつかない。

千夏は亜紀に用意された和室の畳の上に俯せで寝転がり、ぼんやりと考えた。

頑張ってまた歌える場をもらえるのならなんだってする。

自分に出来ることなら何だって。

歌うことは生きていく手段だから。
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