だから君に歌を
いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。

千夏は喉の渇きで目が覚めた。

千夏の身体にはかけた覚えのない毛布と羽毛布団が、そしてテーブルにはミネラルウォーターとグラスが丁寧に用意されていた。

きっと亜紀だろう。

よく気が利く女、
ってきっとこういう女のこと。

千夏はグラスを使わずにそのままペットボトルのミネラルウォーターをぐびぐびと飲み干した。

すっかり目が冴えてしまったけれど、と千夏は辺りを見回す。

テレビの上に置かれたデジタル時計は午前4時を指していた。

冷たく冷えた廊下にそろりと出て何となく一階へと下りる。

ここは慎太郎の家ではなく、旅館の方だ。

早朝のロビーには誰の姿も見えない。
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