だから君に歌を

ロビーの中央に置かれた長いソファに腰掛けるとガタリと音がして慎太郎が現れた。

「あれ、何してんの？」

慎太郎は旅館の従業員の上下鴬色の服を着て両手にはポリタンクを抱えていた。

旅館の浴衣を来た千夏は座ったまま慎太郎が近づいて来るのを見つめた。

慎太郎は床にポリタンクをどかっと下ろして千夏の隣に座った。

「寒くない？俺が温めてあげようか、身体で」

両手を広げて来る慎太郎に千夏はすかさず「死ね」と暴言を投げ付けた。

「ひっで、これでも俺、モテるんだけど」

「だろうね、シスコン野郎ってことを知らなければ」

「そっちはモテないだろ？その性格じゃあ」

「別にモテたくないし」

散々お互いをけなし合って千夏と慎太郎は見つめ合った。
正確には眼を飛ばし合う、だが。