だから君に歌を
余裕で一分は超えるくらい長時間見つめあった後、
慎太郎が先に口を開いた。

「賭けさ、無期限じゃおもしくないからさ、今週中ってのにしない?」

「…は?」

「だから賭け!君が京平に告白するってやつ!」

千夏の短い髪の毛に馴れ馴れしく触れながら慎太郎が言った。

「そんな賭け、了承した覚えは、」

「賭けしないなら不戦勝で俺は姉ちゃんと京平くっつけるよ。絶対」

どこまで本気なのかわからない表情で慎太郎は言う。

千夏は今それどころじゃないって言うのに。
くだらない賭けよりも、
明日からどうするか、だ。

第一何の目的があって慎太郎はこんなことを千夏に持ちかけるのか。

姉と京平をくっつけたければ、
まどろっこしい賭けなどわざわざしなくとも、
勝手にすればいいのだ。

千夏と賭をすることに慎太郎には何のメリットもないのだ。

「あんたは、私が賭に勝てるとでも思ってるの?」

誰に聞いたって千夏の負けは目に見えている。

勝つ自信があったなら、
千夏は京平の元を離れる必要なんかなかった。

隆に抱かれるなんて無駄なことをせずにすんだっていうのに。

「俺さ、姉ちゃんにキスしたことあるよ」

真顔で唐突に慎太郎の口から出た言葉は、
馬鹿にしているとしか思えなかった。
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