だから君に歌を
亜紀の言葉の意味を千夏はテレビを見て知ることになる。

ニュース番組では未だ千夏のことが騒がれていた。

画面には《期待の新人歌手解雇》の文字が。

そして、どこで調べたのか、
千夏の生い立ちまでもが曝されていた。

きっとマスコミにとっては恰好のネタが満載だったのだろう、
千夏の境遇は。

両親の死から、妊娠、高校中退、出産、家出、

なるほど、
一つ一つ改めて文字にしてみると他人の興味を引く。

ただそれに、
勝手な憶測や、尾鰭がついてとんでもないことになっているようだったけれど。

妊娠の相手はろくでなしの元同級生ではないかとか、
援交で出来た子供だとか、

両親が死んでお金に困っての行動の末、
実兄に子供を押し付け、
夢に走った自由奔放人生だとか。

1番最後は否定しないけれど…。

「千夏さん、あんまり、気にしない方がいいよ。こんなデマ、私達も京平も、信じないし」

テレビ画面を前に、トレンチコートも脱がずに座っている千夏に亜紀は肩を叩いた。

「そうだ、京平の所、大丈夫かな」

亜紀の口から発せられる《京平》という響きがとても自然で、
京平との親密さを見せつけられた気がした。

きっと本人にそんなつもりは微塵もないのだろうけど。
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