だから君に歌を
割れた茶碗の破片を素手で拾おうとしていた千夏の手を掴みあげた。

「あぶねーだろっ!触んなよっ」

目の前に京平の素肌があった。

石鹸の香りが微かに漂って来て千夏は顔を逸らした。

「ん?どした?千夏」

顔がほてるのが自分でもわかる。

「ふっ、服くらい着てよ!年頃の女の前でデリカシーなさすぎっ!最悪!」

茶碗の破片をすでに拾いにかかっていた京平は不思議そうに顔を上げて千夏を見つめた。

「何赤くなってんだ?昔から俺、こうだろ。今更。しかも年頃の女って言っても、妹だしなー」

軽く笑い飛ばして京平は破片を捨て、
居間に戻って行った。

京平は知らない。

今の言葉がどれほど千夏をズタズタに切り裂く凶器であるのかを。

知らずに、
事あるごとにその凶器を千夏に突き付けて、

その度に千夏の心は悲鳴をあげる。
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