だから君に歌を
2京平の好きな人
「ねぇ、電話」
久々に亜紀から借りたギターを適当に鳴らしていると、慎太郎が子機を持ってやってきた。
「…誰から」
聞かずとも、
こんな所に電話をしてくるなんて人間は一人しかいないけれど、
「あんた、よけいなことしないでよ本当に」
千夏はギターを床に起き、慎太郎をきっと睨みつけた。
「賭け、明日までだよ」
飄々として慎太郎は子機を扉の前に置いて姿を消した。
保留のランプが赤く光っている。
千夏はしばらくピックを爪で弾いたりしながらその場を動かずにただ、
扉の前に置かれた子機を見つめていた。
このまま、
でなければ、
出ずにここからも姿を消し、通帳も送り返してしまえば今度こそ本当に、
京平との繋がりは切ってしまえる。
「もしもし」
<…>
千夏は保留ボタンを押し間違えたのかと、
一度受話器を離し、
再び「もしもし?」と呼び掛けた。
<…あ。俺、京平だけど>
「なんの用」
<久しぶりだな。元気か>
京平はいつになく景気の悪い声で、
彼らしくない態度だった。
<…来週、千夏の誕生日だろ>
「そうだね。関係ないけど」
<お前、どうするんだ?…しばらく亜紀ちゃんのとこに世話んなるの、か?>
「さあ、」
<…>
京平の顔は見えないけれど、受話器の向こうからはひしひしと緊張感が漂ってくる。
これまでにない、
他人行儀な、
変な距離が感じられた。
久々に亜紀から借りたギターを適当に鳴らしていると、慎太郎が子機を持ってやってきた。
「…誰から」
聞かずとも、
こんな所に電話をしてくるなんて人間は一人しかいないけれど、
「あんた、よけいなことしないでよ本当に」
千夏はギターを床に起き、慎太郎をきっと睨みつけた。
「賭け、明日までだよ」
飄々として慎太郎は子機を扉の前に置いて姿を消した。
保留のランプが赤く光っている。
千夏はしばらくピックを爪で弾いたりしながらその場を動かずにただ、
扉の前に置かれた子機を見つめていた。
このまま、
でなければ、
出ずにここからも姿を消し、通帳も送り返してしまえば今度こそ本当に、
京平との繋がりは切ってしまえる。
「もしもし」
<…>
千夏は保留ボタンを押し間違えたのかと、
一度受話器を離し、
再び「もしもし?」と呼び掛けた。
<…あ。俺、京平だけど>
「なんの用」
<久しぶりだな。元気か>
京平はいつになく景気の悪い声で、
彼らしくない態度だった。
<…来週、千夏の誕生日だろ>
「そうだね。関係ないけど」
<お前、どうするんだ?…しばらく亜紀ちゃんのとこに世話んなるの、か?>
「さあ、」
<…>
京平の顔は見えないけれど、受話器の向こうからはひしひしと緊張感が漂ってくる。
これまでにない、
他人行儀な、
変な距離が感じられた。