だから君に歌を
震えたような吐息が受話器から聞こえた後、

<千夏、俺、お前に聞きたいことが…ある>

と京平が言った。

「何よ」

急に静かになった。
沈黙が痛い。

<電話で、聞くことじゃ、ないかもしんねーけど、直接聞く勇気、ないから、ごめんな…>

「だから何」

<正直に答えてくれ>

受話器を握る手が知らず知らずのうちに震えていた。

怖い。

なに、この空気。

眩暈さえしそうなほど、
息苦しく、
体温が急激に下がっていくのがわかった。

<千夏の、好きな男って>

目の前が揺れた。

<…俺なのか?>

ピッ、
ツー、ツー、ツー、

無意識のうちに電話を切っていた。
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