だから君に歌を
ようやく勇気を出して尋ねた質問に返って来たのは、機械的なツー、ツー、ツー、
という音だった。

京平は馬鹿みたいに切られてしまって何も聞こえない受話器を耳に当てたまま厨房にじっと立っていた。

切った、
という行為が、
千夏の肯定の意と、

「ーっは、」

悲しい。

京平は塞きを切ったように溢れて来た涙を抑え切れずに思わず口を手で塞いでその場に座り込んでしまった。

手放した受話器がゴツッと板の間の床に落ちた。

一体いつから…

いつから千夏は苦しんでいたのか。

「くっ…」

どうして気付いてやれなかったんだろう。

自分が守ると言っておきながら、
自分が一番千夏を傷つけていた事実に心臓が押し潰されそうになった。

謝ったって許されない。

せめて、
両親が生きていてくれたら、まだ、
千夏はこれほど苦しまずに済んだかもしれない、が、

そんな両親すらも千夏から奪うきっかけを作ったのは京平だった。
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