だから君に歌を
「はっ、はっ」と、千夏は浅く荒い呼吸を繰り返した。

さっきまで子機を握っていた掌にはじっとりと汗が滲んでいる。

心臓が止まるかと思った。

間違いなく京平が言った言葉…。

どうして、
何でばれたんだろう。

ばれるようなことはしていないはず。
むしろ千夏は京平を嫌うそぶりを見せていた。

京平が千夏を見て自力でそんな考えにたどり着くとは到底思えなかった。

とすれば可能性は一つ。

千夏はテーブルの上に置いた子機を再び握り締め、
立ち上がった。

もうおしまいだ。

もうこれで、
千夏は京平から妹として愛される資格すら失った。

「慎太郎っ!」

千夏は宮崎家の台所で亜紀と二人、仲良く夕食の準備をしていた慎太郎に飛び掛かり、淡いベージュのセーターの首根っこを引っ張った。

「わっ。ナニナニナニ、伸びる!伸びるから!」

千夏の鬼のような形相に慎太郎が腰を引いた。
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