だから君に歌を
「あんた京平に何言ったのよ!」

「えっ、何って別に何も…」

「嘘っ!あんたが言わなきゃどうして京平があんなことっ。あんたが言わなきゃ京平があんなこと言い出すはずがない!」

慎太郎も、慎太郎の隣の亜紀も驚いた顔で千夏を見つめていた。

「あんたがっ!あんたがっ!!」

どうしてよ。

知られたくなかった。
絶対に。

なんのために、今まで…

「もう…おしまいじゃない、本当に、」

散々に引っ張った慎太郎のセーターを絞るようにぎゅうっと握る。

「…ど、どうしたの。京平が何、」

「…もう、いい」

そう言って千夏はセーターをゆっくりと離した。

伸びたセーターはそのままの形でしわくちゃになっていた。

「千夏さん、」

亜紀が千夏に手を伸ばしかけたので、
千夏はさっと身を引き、
くるりと方向転換した。

翔ける。

部屋に戻り、トレンチコートを羽織り、バッグを掴んで今度こそ本当に宮崎旅館を飛び出した。

寒い。

吐く息があっという間に白く、水滴に変わる。

斜めに激しくふぶく雪が睫毛に引っ掛かって視界が閉ざされ、
頬や指先を凍てつかせ、
鼓膜をキーンと痛くさせた。

雪や水溜まりに足を取られながら、
それでも千夏はひたすら歩き続けた。
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