だから君に歌を
古い水道の蛇口から規則的に漏れる水滴が、真下に置かれたグラスに落ち、
ピチャン、ポチャンと音をたてて溜まってゆく。

常夜灯だけが点された部屋に、こうして二人で天井を仰いで寝そべるのは何年ぶりだろうか。

部屋に入って右のベッドが京平のもの。
そして左が千夏だ。

時折聞こえてくる京平の寝返りをうつきぬ擦れの音や、ため息にいちいち千夏は神経を過敏に反応させた。

「なぁ千夏…。起きてるか?」

千夏は京平の声にびくりと体を強張らせた。

「な、何よ」

「昼間の話しだけどさ。お前、産むって言うけど、ちゃんと考えたのか?」

京平の声は落ち着いていた。

「その歳で母親になるって、簡単なことじゃないぞ。大変だし、きっと辛い目にも遭う。それでもお前は産むって言うのか?」

「…産むよ」

それしか千夏に残された道はない。

千夏の最低で最悪な計画を実行するにはそれしかないのだ。

けれど京平はそんな千夏の計画を知るよしもない。

「そうか…。でも、父親は?誰なんだ?そいつは千夏が産むってこと知ってんのか?」

「知ってるも何も、父親が誰だかわかんないから」
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