だから君に歌を
その時点で賭は千夏の負け。

<あの…>

千夏は携帯電話を耳元から離す。

<あなたの名前は…>

小さく聞こえた中原皐月の声に千夏はぽつりと呟いた。

「−−千夏」

きっと中原皐月には聞こえなかっただろう。

斜めに吹き荒れていた雪はいつの間にやら牡丹雪に変わっていた。

「千の雪…か」

ねぇ京平、
雪なんてそんな綺麗なもんじゃなかったよ。

寒くて冷たくて、
千夏を芯から凍らせてゆく。

隆と千夏の間に生まれた存在なんか、
汚いものでしかないような気がした。

刑務所もやっぱり、寒いのだろうか。

「隆、あんた、妹に受け入れてもらえなかったんだよね…」

千夏はふらりと立ち上がり、電話ボックスから出た。
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