だから君に歌を
あてどもなく逃げるのには疲れてしまっていた。

もうこの辺で終わりにしよう。

千夏は小さな小屋のようなバス停を見つけ、
吸い込まれるようにその中に入った。

ボロボロの汚れた時刻表にはぽつりぽつりとまばらにしかバスの時間が書かれていない。

けれどそこにちょうどバスがやってきた。

大きなバスには誰も乗っていない。

バス停の前でぴたりと停まったバスは、ビーっと音を鳴らして扉を開いた。

暖房が効いた車内に入ったとたん、千夏の身体はじんじんと痺れたような感覚に襲われた。

痛痒い、
血が急激に溶かされ沸騰したみたいに全身に巡らされる。

バスの運転手は1番奥の座席でうち震える千夏には特に目もくれずに、バスを走らせた。
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