だから君に歌を
電話が切れた後も京平はしばらく立ち上がれずにいた。

足に力が入らない。

自分の犯したとんでもない罪に恐ろしくなって、
背筋が冷えた。

どうしよう、
どうしたら、

もし、

千夏が死んだら。

考えただけで恐ろしくてたまらない。

「千夏…」

行かないと。
京平はようやくのことで立ち上がり、港へとバイクを走らせた。

島をでる船の中でも、空港へ向かうタクシーの中でも、飛行機でも、
病院につくまでの間何をどうやってそこまでたどり着いたのかさっぱりわからないくらい記憶が飛んでいた。

「こちらです」

何時間もかけてようやくたどり着いた病院の一室には痛々しい姿で横たわっていた。

あちこちに包帯やらガーゼやら。

「意識はまだ戻っていません…」

京平は呆然と立ち尽くした。

再び電話で聞いたのと同じ説明が繰り返される。

千夏が発見されたのは自殺者が後を絶たない場所で、ボランティアで毎日パトロールをしている男性が、
千夏が飛び降りた直後に発見したのだと言った。

でなければ、
この季節、まず助からない、と。

その場所から飛び降りて無事なだけでも奇跡だそうだ。

落ちた場所がよかったらしい。雪が積もっていたその上に、千夏が倒れていた。

それでも無傷なわけはなく、骨折や損傷が激しかった。
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