だから君に歌を
看護師が出ていってようやく京平は横たわる千夏の元へと進んだ。

足が縺れて勢いよくベッドへと突っ込む形になり、
ベッドが軋む。

リノリウムの床に膝を付いた体勢で京平は両肘をベッドにかけ、
千夏の顔を覗き込んだ。

真っ白なシーツのせいか、千夏の顔に血の気はなく、不気味な程青白かった。

生きているのか確認するようにその頬に手を伸ばすと微かに体温は感じられる。

「千夏、」

頭や顔の傷に京平の胸はひきちぎれそうになる。

死ぬ程の勢いで千夏が自分を想ってくれているなら、それに応えられないわけがない、と思った。

きっと、
愛せる。

その方向が今までとは少しだけ違う、それだけのこと。

大事な妹を死なせるくらいなら、
その方がいい。

香織の言う通り、京平は鈍すぎた。
こんなに苦しめて追い詰めるまで気がつかないなんて、

何が守る、だ。

何が親父たちの分まで、だ。

自分の安っぽい誓いにヘドが出そうだった。
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