だから君に歌を
「あのね、ちぃちゃん。きっと大丈夫だよ。千夏ちゃんに会いたがってるみたいだし。京平が育てたんだから、大丈夫」

亜紀は千夏の握りこぶしを両手で握り、
諭すように「大丈夫」を繰り返す。

千雪に問題がないことくらい亜紀に言われなくとも千夏だってわかっている。
問題があるのは千夏の方、接し方がわからないのだ。

「あんた、千雪に会ったことあるんだっけ」

「え?ああ、うん。慎太郎と一緒に」

「そう、どんな子だった?」

自分で言って母親の台詞じゃないな、と思う。

「かわいいよ。少し恥ずかしがりで、それでね、慎太郎が好きなんだって。慎太郎と結婚するって言ってたんだよ」

「趣味悪…」

亜紀の話を聞きながら千夏はケチャップを手に取り、1番大きなオムライスに絵を描き始めた。

ぐるっと丸を描いて、
目、鼻、口。

「わ、可愛い。ちぃちゃんきっと喜ぶね」

耳とヒゲを付け足して猫の出来上がり。

どんなに怖くても逃げてばかりはいられない。

京平が沖縄に戻る日に、京平と約束をした。

病院の玄関で、

<もう、黙っていなくなったりしないでくれよ>

そう言う京平の瞳は真剣で。<Yes>以外の答えなんてできなかった。

そして−…、
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