だから君に歌を
「ねえ、」

呼び掛けると亜紀がきょとんとした顔で千夏を見上げる。

「あんたさ、京平が好きなの?」

そんな質問をすると、
瞬きを2、3度繰り返し、数秒の後、亜紀は「え!?」と奇声を発した。

「…違うの?」

千夏が眉をしかめると、亜紀は慌てたようにぶんぶんと首を左右に振った。

「何で!?違うよ!?京平はただの知り合いってゆーか、友達ってゆーか」

「でも慎太郎が、京平は男嫌いのあんたが唯一触れても大丈夫な特別な存在だって、」

好きだから触っても平気なんじゃないの?
と、千夏は疑問を投げかけた。

「慎太郎のやつっ、まだそんなことっ」

亜紀は怒ったように表情を崩す。

「とにかく違うから!千夏ちゃんまで変な誤解しないでよっ!」

そんな亜紀に千夏は少しだけほっとした。
この期に及んでもやはり、京平に恋人ができるのが許せない自分がいる。

長年玩んでいた気持ちは簡単に消えるものではなくて、
京平にはっきり振られても京平を想う気持ちは変わらない。

いつかは手放さないといけないんだろうけれど。

だって、
これ以上京平を困らせたら可哀相だ。

千夏が怪我で動けなかった時の京平は、
怪我人の千夏の方が見ていられない程傷ついて、
苦しんで、
今にも壊れそうなくらい脆い存在に見えた。
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