だから君に歌を

肩までのさらさらの髪の毛と、まあるくて黒目がちの瞳。

期待と不安の入り交じった表情で千夏をじっと見つめる小さな女の子。

「…ママ？」

桜色の唇が千夏をそう呼んだ。

＜ママ＞

自分が呼ばれている実感など感じられず、
千夏は千雪から目を逸らしてしまった。

「千夏、」

慎太郎の後ろから現れた京平は千雪の手を引き、千夏の前までやって来る。

「ゆっくりでいいから」

そう言って京平の残った手が千夏の指先に振れた。

「いいんだ。怖がらなくても、もう何も、」

「何、が」

「三人で、」
「あ！オムライスのネコちゃん！」

京平の言葉を遮るように千雪の嬌声が響いた。

どうやらテーブルの上に並べられたオムライスの中の猫の絵を見つけたようで、ぱっと京平の手を離した千雪がテーブルに飛び付いた。

「お母さんがちぃちゃんのために描いてくれたんだよ」

千雪の横にしゃがみ込んで亜紀が説明する。
その瞬間、京平と千雪の視線が千夏に向く。

千雪は「ありがとうママ」と言ってとびきりの笑顔を見せてくれた。

千夏の手を握る京平の手に力が入る。

千夏は何も言えなかった。