だから君に歌を
良く晴れた日、
中原皐月に指定された公園に千夏は千雪を連れて訪れた。

小さな砂場とブランコ、ジャングルジムがある、そんな、どこにでもあるようなありふれた公園だった。

千夏は小さな千雪の手をしっかりと握り締めて公園へと足を踏み入れた。

京平の「俺も一緒に行く」という申し出を千夏は断った。

これは千夏が一人でやるべきことだと思ったからだ。

千夏ははっきり言って、千雪の母だと名乗る資格など自分にはないと思っている。

産んだだけで育てもせず、愛情もかけなかった人間が母であるはずがない。

けれど千雪は、
間違いなく、兄を想う千夏と、妹を想う隆の間に出来た子供だった。

千夏と隆の間にお互いを好きだという気持ちはなくとも、切ない、許されない想いがあったからこそこうやって今、
千夏は小さな手を握っている。

中原皐月はすでに公園にいた。

彼女も一人だった。

水飲み場の近くにあるベンチに腰掛けて千夏たちを見ていた。

千夏は軽く会釈して、
中原皐月のもとへと歩き出す。
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