だから君に歌を
千夏が中原皐月の前で立ち止まると中原皐月は瞳を見開いて口に手を当てた。

彼女の視線はただ一点に注がれていた。

キョトンとした顔で彼女を見つめる千雪に。

「…信じられない」

そう彼女は漏らす。

「この娘が、隆兄の…?」

<タカニイ>
彼女の呼び方が妙に切なく響いた。

タカニイって、呼ばれてたんだ。と、なんだか不思議と胸が苦しくなる。

「私、実の兄が好きなんです」

ぴくり、と中原皐月の肩が反応する。

中原皐月がゆっくりと顔を上げた。

綺麗な人だった。

隆の話に聞いた通りの、
細くて白くて、
でもどこかしっかりとした強さを表す顔。

肩にかかるくらいの中原皐月の髪の毛が風に揺れる。
< 184 / 189 >

この作品をシェア

pagetop