だから君に歌を
島までの船は一日たったの三便。
朝と昼と夜。
潮風に乗ってやってくるのは懐かしい人の声。

千夏は船が島に近づくにつれてだんだんと苛立ちが募っていくのを実感していた。

それというのも、港に見える人影のせい。

こんがりと健康的に焼けた肌に、オレンジに近い髪の毛。
そして髪の毛との色合いを考えてわざとそうしているのかわからないけれど暑苦しいオレンジのTシャツを来た人物が、
千夏の乗る船に向かって手を振っていた。

千夏はゆっくりと込み上げてくる吐き気をなんとか堪え、
腹部に手をあてた。

そうこうしているうちに
船は港に着き、
千夏は重い腰をあげた。

先程から船を待っていた男が今か今かと船の前で千夏を待っている。

「千夏!おかえりー!夏休みに帰ってくるなんて珍しいな。元気にしてたか?」

千夏が島に降り立った瞬間、そいつは最高の笑顔を見せた。

「…京平、うざい」

「何だお前、兄ちゃんに向かって呼び捨てかよ!にぃにぃーって呼んでみろ?」

「ばっかじゃないの?キモいから」

「お前なあー」

呆れたように、
でもどこか嬉しそうに京平が言った。

そう。
こいつが、
嫌味なくらいこの島が似合って、
汚れのないこいつが、

私の兄。

たった一人の家族。
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