だから君に歌を
普通、男と食事をする場合、女が率先して肉を焼くのだろうけれど、
隆は千夏に一切それをさせずに肉を焼いてくれた。

千夏はなんだか照れ臭く感じながらも、
隆が焼いてくれた肉を口に運んだ。

「そういえば、千夏ちゃんは兄弟とかいる?」

「え?」

「男兄弟とか」

「…兄が、一人いる、けど…」

千夏は急に憂鬱な気分になった。
兄の話はあまりしたくない。

「やっぱりね」

隆は何だか納得したように頷きながら言った。

「歌う君を見つけた瞬間、似てるって感じたんだ。俺達」

その言葉の意味を知るのは、恐ろしくもあり、
嬉しくもあったんだ。

確かに千夏と隆は似ていた。

叶わない恋をして、
気持ちを押し殺して、

だから、
隆には全て話すことができた。
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