だから君に歌を
それを口に出して誰かに話すのは初めてのことだった。

話し出すと止まらなくて、

尚更苦しかった。

気がつくと千夏はホテルのベッドにいた。

頭が少しだけ重い。

瞼を開くと、目の前には隆がいた。

狭いビジネスホテルのシングルベッドのシーツは乱れていて、
千夏も隆も裸だった。

「よく眠れた?」

目の前の隆が微笑んで、
千夏の肩にシーツをかけた。

「…うん」

ホテルの窓の遮光カーテンの隙間からは明るい光りが差し込んでいた。

昨日は飲めないビールを無理して飲んだ気がする。

「京平って言うんだ?千夏のお兄ちゃん」

隆の言葉に千夏はドキリとした。

昨日、兄の名を隆に教えた記憶はない。

「俺のこと何回か京平って言ってた」

戸惑う千夏に隆は意地悪な笑顔を見せる。

「俺も千夏のこと、皐月って呼んだからおあいこだけど」
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