だから君に歌を
千夏はそれから隆が沖縄に滞在している一週間の間、毎晩隆に抱かれた。

ギターを持って下宿を抜け出し、
隆と食事をし、
ホテルで寂しさを埋め合った。

「もし、千夏が俺の子を妊娠して、その子を京平の元で独りで産んだらさ。きっと京平はずっと千夏一人が独占できるよ」

最後の晩に隆が冗談混じりに言った。

「もう、きっと会うことはないけど、元気でな」

そう言って千夏の頭を撫でた隆の顔は、完璧に妹を見るようなお兄ちゃんの顔だった。

ある意味、
血の繋がらない千夏と隆の方が、
精神的には兄妹に近かった。

千夏は隆と過ごした一週間の中で一度も隆の住所や連絡先を聞かなかったし、
隆も聞いて来なかった。

お互い知っているのは下の名前と、
そしてきょうだいの名前だけ。

聞く必要もなかったし、
聞きたいとも思わなかった。

それがまさか本当に、
千夏が隆の子を妊娠するなんて、
誰が予想出来ただろう。
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