だから君に歌を
産婦人科には千夏より年上の妊婦がたくさんいた。

そんな中で千夏と京平はちょっとだけ目立っている。

待合室に京平と並んで座っていると、時折周りの視線を感じた。

今時千夏より若くして出産する子もたくさんいるけれど、
それでもやはりまだ珍しいのかもしれない。

千夏はそんな周りの視線など大して気にならない性分なので、
しらっとした表情で自分の順番を待っていたが、
隣に座る京平は、初めての場所に緊張しているのか、
そわそわと視線を動かしたり、
小さく貧乏ゆすりをしたりしていた。

「京平、少しは落ち着きなよ。恥ずかしいから」

千夏がきつい口調で指摘すると、

「おお、悪い」

と言って京平は背筋を伸ばした。

今度は姿勢が良すぎて逆に目立つ。
< 29 / 189 >

この作品をシェア

pagetop