だから君に歌を
久々に帰った実家は何一つ変わっていなかった。

古びた作りの居酒屋で、店の奥が生活スペース。

狭い家だからと兄と一つの部屋で、カーテンをしきりにして過ごしていた。

変わったと言えば今はその子供部屋のカーテンがなくなったということだけ。

家具はそのままだけれど。

「お前いつまでこっちにいるんだ?受験生だからなー。大学の試験てやっぱ大変だろ?」

京平は野菜の皮を向きながら、部屋に寝そべる千夏に話しかけてくる。

千夏は短い自分の髪の毛をくしゃくしゃと触りながらテレビをつけた。

「千夏はどこの大学行きたいんだ?兄ちゃん、ちゃんと貯金してあるから遠慮なんかしないで好きな所受験しろよ?」

千夏はため息をつく。

「…しないよ」

「え?」

「受験なんかしない」

千夏がきっぱりと言い切ると、京平は血相を変えて千夏の方へと飛んできた。

「受験しないってどういうことだよ!」

「…」

「あれか?金のこととか心配してんだったら、そんなの全然気にすんなよ?!俺はいくらだって働くし、奨学金だって、」

「うるさいなぁ!そんなんじゃないから!」

千夏はバンッとテーブルの上にテレビのリモコンをたたきつけて起き上がった。

「行きたくないの!ただそれだけ!」

「…行きたくないって、」

「それから高校も辞めるから。退学届出してきたから」
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