だから君に歌を
「なんなんだよ千夏!さっきの態度!」

店を出てタクシーに乗るなり京平が怒ったように言った。

京平の声にタクシーの運転手がフロントミラーごしに千夏たちの方をちらりと見る。

「香織さんが話し掛けてんのにずっとシカトで、クッキー貰って礼の一言も言えないのか!?」

「…」

「何なんだよ急に。何怒ってんだよ。何が気にいらねーんだよ!?」

千夏は溜息をついて足を組んだ。

「わっかんね」

京平も疲れたように背もたれに身を沈めた。

気まずい空気に気を聞かせた運転手がラジオをつける。

のど自慢が車内に流れ始めた。

「…京平、あの女と付き合うの…」

何とか声を振り絞って出した千夏の言葉に京平は目を丸くした。

「…は?」

「だからっ、あの香織って女とっ!」

呆気に取られて京平がぽかんと口を開けた。

「何でそーなるんだ?」

千夏は聞いたことを少し後悔した。

「だって、あの女っ京平に気ぃあるの見え見えじゃんっ!レシピとか、店とかただの口実だし!京平もへらへらへらへらしちゃってさ!何よ何なの。私がこんなときに女と付き合うつもり!?」
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