だから君に歌を
さらに京平の口が大きく開いた。

その表情が間抜けすぎて苛々が更に募る。

千夏は小さく舌打ちをした。

「なんだ。それで機嫌悪かったのか?」

穴があったら入りたい。

「そっか。…そうだよな」

返事をしない千夏に勝手に京平が頷いて納得したように呟いた。

「悪かったな、千夏。俺、デリカシーなかったよな。すまん」

そう言って京平が千夏の頭を撫でる。

「何がっ。馬鹿じゃないのっ」

「千夏は一人で母親になるんだよな。なのに、俺が誰かと付き合うって、嫌だよな」

慰めるように京平の手は優しく千夏の頭の上を往復した。

「安心しろよ。俺、いつかお前に、お前を真剣に愛して守ってくれる奴が現れるまで、だれとも付き合わねーよ。お前の傍にいて、生まれてくるガキの父親やってやるから」

京平の口から何の躊躇もなしにそんな言葉が放たれた。
< 36 / 189 >

この作品をシェア

pagetop