だから君に歌を
みんみんと外の蝉がやかましく鳴いている。

「退…学?」

「そう、だから大学にも行けないし、行くつもりはないの」

京平の顔が見る見るうちに怒りの表情に変わっていった。

「今時大学も行かずに高校中退なんて何考えてんだ!」

そう怒鳴って京平は千夏の腕を引っ張って立ち上がり、
抵抗する千夏を力ずくで店の外へと連れ出す。

「離してよ!どこ行くのよ!」

「学校だ!今から行って退学を取り消してもらうんだよ!」

冗談じゃない。

「俺になんにも言わないで勝手なことっ」

京平は無理矢理千夏の頭にヘルメットを被せて原チャリに乗せようとした。

「いい加減にしてっ!」

そんな京平を千夏は振り払った。
よろめいた京平の腕が原チャリにぶつかり、
ガシャンと音をたてて古い原チャリが倒れる。

ミンミン、ミンミンと、
やかましい。
耳障りだ。

目の前の、
少し傷ついたような京平の顔も、
目障りだ。

「本当、うんざりなんだよっ。親気取りで、京平は親代わりのつもりかもしれないけど、私はそんな風に思ってない!偉そうにしないで!」

「…千夏」

「第一京平だって高校中退してんじゃん!」

「それは親父達が、」

「お父さんたちを言い訳にしないでよ!行こうと思えば行けたでしょ!?」

京平の顔がさらに悲しそうに歪んだ。

吐き気がする。

「私、妊娠してるの。だから辞める。絶対に」
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