だから君に歌を
千夏はこくりと首を縦に振った。

「やった!よし!お前は今日から千雪だぞー!」

嬉しさのあまりテンションの上がった京平が突然千夏の大きくなったお腹に飛び付いてきた。

京平の顔がお腹に触れる。

「ちょっ、やだっ!」

とっさに千夏は京平を突き飛ばしていた。

ガシャン!

千夏に突き飛ばされた京平がテーブルにぶつかり、グラスが倒れて床に烏龍茶がこぼれた。

「…千夏?」

床に手をついた京平が茫然と千夏を見つめていた。

手が震えている。

どうしよう。

きっと、顔が赤いのも京平に気付かれている。

「どうしたんだよ?急に」

ポタポタとテーブルから垂れてくる烏龍茶が畳に染みを作っていった。

馬鹿みたいだ。

京平はちっとも意識なんかしていないのに、
自分一人で意識して、
こんなに、

驚いた表情をしている京平と向かい合っているのがいたたまれなくなって、
千夏は立ち上がった。

近くにあったパーカーを羽織り、家を出た。

「おいっ、ちょっと千夏っ」

京平が千夏を追って出てきた。

千夏は街灯の極端に少ない中を走り、林の中に飛び込んだ。

明かりなんか無くったって走れるくらい慣れた道を走って石段を上った。

「千夏っ!どこ行くんだよ!危ないだろっ!止まれっ!」

もう、
消えてしまいたい。

この汚い感情と一緒に。

綺麗な京平まで蝕んでしまう前に。
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