だから君に歌を
石段を上りきると、
開けた原っぱに出た。

勢いづいた千夏はバランスを崩して転ぶ。

膝と両手を地面について倒れた。

息が上がる。

「もぅ、最低…」

「おい馬鹿っ、千夏っ!」

千夏に追い付いた京平が千夏の肩を抱いた。

「何やってんだよっ!怪我してないか!?」

「やだっ、離してよっ、気安く触らないでっ!」

千夏の悲鳴のような叫び声に京平はぱっと千夏の肩から手を離した。

触られると、駄目なの。

もう、触れるだけで、
心臓が契れそうなほど、
痛くて、苦しくて、

「…ご、めん千夏、俺、」

嬉しいのに。

京平が傍にいることが嬉しいのに、

「俺のこと、やっぱうざいのか?…嫌だったか?俺、なんかさぁ、もう本当に親になったみたいな気分でさ。浮かれてて、でも、それが千夏に嫌な思いさせてんだったら…」

なんて的外れな考えだろう。

そうじゃない。

「千夏は、俺のこと嫌い…か?」

そんなわけない。

「やっぱさ、変だよな。ずっと、親父達が死んでから…」

変だよ。
まともに京平に近寄れなかった。
素直に甘えることもできなかった。

目の前に広がる満天の星空が目に痛かった。

「私、は…京平のこと、」

ずっと、

千夏が顔を上げるとそこには悲しそうな、
傷ついたような京平がいた。

「ずっと京平のこと、」

偽ることで、
隠すことで、
守り続けていた関係。

京平からの愛を手放すのが怖くて、
拒否されるのが怖くて、

言えなかったこと。

「京平が…」

今言ったら…。

千夏は恐る恐る口を次の言葉の形に開いた。

好き。

「いいっ。言うなっ」

けれどそれは京平に遮られた。

「今はまだ、はっきり言われたら…傷つく。情けねーけど、怖い…」

信じられないくらい弱々しい京平の囁きが星空に溶けた。
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