だから君に歌を
この小さな島は、
どこもかしこも京平との思い出が詰まっていた。

この、天然のプラネタリウムが満喫できる高台も、

真っ青な海も、
林も、
空き地も、

千夏がゆっくり立ち上がろうとすると、
京平は千夏に手を伸ばしかけて、はっとしたように引っ込めた。

気まずい空気が二人の間に流れる。

「…俺、どうしたらいい?」

石段を下りる千夏の背中に京平の苦しげな声が降って来た。

千夏は振り返らずにゆっくりと石段を下る。

「触らなきゃお前を守ることもできねーよ…」

ねえ、隆。

隆も今、こんなに苦しいのかな。

皐月っていう妹のことで、こんなに苦しい気持ちになったりしているのかな。

悲しいね。

どうして、他人じゃなかったんだろう。

他人ならこんな思いしなくてすんだのに。
隠さず、恥じる事なく気持ちを伝えられたのに。

千夏のこの気持ちは、
伝えることすら罪。
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