だから君に歌を
病院を出てバス停に向かう道の途中、
千夏はあるものに引き寄せられた。

それは、
小さな楽器店のショーウインドーに貼られた一枚の貼紙だった。

千夏はその貼紙の前に立ち、じっと見つめた。

<新人アーティスト募集>

千夏もよく知る大手の音楽プロダクションの新人オーディションだった。

千夏は貼紙の下の方に細かい字で書かれている募集要綱に目を走らせた。

一次審査は自身で作成した楽曲を録音したテープを送るだけのようだった。

千夏はとっさに自分の鞄から手帳を出してメモをしていた。

「千夏ちゃんじゃない?」

そんな千夏の背中に声をかける人物がいた。
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