だから君に歌を
little Cafeなんて名前なだけにこじんまりとした店内にはアルバイトらしき男の子が一人留守番していた。

「ごめんねー、雄二くん。買い出しに時間かかっちゃって」

そう言いながらカウンターに立ち、
エプロンをつけると香織は入口に突っ立ったままの千夏に手招きをした。

千夏は不本意ながらもカウンターに腰を下ろす。

南国をイメージした店内は沖縄というよりハワイアンな内装で、
軽快なリズムの音楽が流れていた。

「もうすぐなの?」

「え?」

「赤ちゃん、予定日いつ?」

前に会った時、千夏に散々無視されたのを覚えていないかのように香織は千夏に話しかけた。

「そんなに私のこと敵視しないでよ。私はもう京平にフラれてるんだから」

「えっ」

香織の言葉に驚いて顔を上げると、香織はふっと鼻で笑った。

「驚くことないでしょ?だって私がフラれたのって千夏ちゃんのせいじゃない」

「ど、して」

「違う?違わないわよね。だって京平は千夏ちゃんを選んだはずよ。一人で子供を産む千夏ちゃんを支えたいんだって、京平言ってたもの」

確かに、千夏は京平に香織と離れるように仕向けた。

千夏が一人で子供を産むということを利用して京平を繋ぎ止めて、誰のものにもならないように。

まさか香織がそのことに気がつくとは思っていなかった。

「千夏ちゃんって、今までも、ご両親が亡くなってからは特に、京平をそうやって独占してきたんでしょう?」

香織の言葉にはいちいち刺があった。

カウンターに座ったまま顔を強張らせている千夏に優雅な笑みを浮かべて香織はグレープフルーツジュースを差し出した。
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