だから君に歌を
中は薄暗く、煙たかった。

たくさんの人混みを掻き分けながら京平は前へと進む。

京平がわざわざ、まだ四歳になったばかりの千雪を知り合いに預けて東京へ来たのには理由があった。

それは東京の大学へ入り、そのままそこで就職した友人が里帰りで京平の店に顔を出したときにそいつが何気なく言った一言だ。

東京の小さなライヴハウスで千夏に似た女が歌っていた。

そいつはそう言った。

似ている、
というだけで、他には何もわからないあやふやな話だったけれど、

京平はいてもたってもいられなくなって飛行機で飛んできた。

それにしても、
本当にこんな所に千夏がいるのだろうか。

柄の悪そうな人間ばかりが目について京平は嫌な気分になった。

そんなことを思っていると京平は小さなステージの真ん前にたどり着いた。
< 68 / 189 >

この作品をシェア

pagetop