だから君に歌を
ステージの中央にはマイクスタンドが立てられ、
奥にはドラムがあった。

まだ誰も立ってはいない。

京平が呆然とステージを見上げていると、
店内で鳴り響いていた曲が一際大きくなった。

ざわざわとその場にいた人達がどよめき始め、
ステージに向かって何かを叫んでいる。

京平の隣に立っていた女の子が「チナツー!」と叫んだとたん、京平の心臓が大きく跳ねた。

ものすごい緊張と期待が全身に駆け抜けた。

ステージの脇からギターを抱えた女が出て来ると、
どよめきが歓声に変わった。

ギター、ベース、ドラムの男達も女に続いて出て来ると、
女がマイクを握り、息を吸い込んだ。

一瞬、女と目が合った。

短い黒髪に、
大きな瞳。

細い手足。

それは紛れも無く、
京平がよく知る妹、千夏だった。
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