だから君に歌を
そして前をゆく男の方へと駆けて行く。

「何?いいの?」

「別に、知らない奴だし。」

千夏はさらりとそんなことを男に言った。

「え、じゃあなにストーカー?」

「…」

「気をつけろよー。最近変なの多いからなー」

そんな会話を京平に聞こえるようにして、千夏と男達は迎えに来ていたらしき、黒のワンボックスカーに乗って走り去ってしまった。

京平はただただ信じられずに立ち尽くした。

ショックはじんわりと後からやってくる。

京平は安いビジネスホテルのベッドに寝転びながら、
じわじわと広がっていく胸の痛みを実感した。

京平のことを全くの他人のようにあしらう千夏が信じられなかった。

小さい頃は千夏が京平にくっついて回っていて、京平の方がむしろ千夏を欝陶しく思っていたほどだ。
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