だから君に歌を
翌日、京平は千夏が歌っていたあのライヴハウスに向かった。

実の兄だから、千夏の住所を教えてほしいと渋るオーナーにしつこく頼み込み、京平のしつこさに根負けしたオーナーは、
千夏の住所は教えてくれなかったものの、
千夏が昼間働いているというCDショップの場所を教えてくれた。

京平はオーナーに書いてもらった地図を頼りにすぐさまそのCDショップに向かった。

東京に来てからというもの、人の多さにうんざりしていた京平だが、
今日は逆にその人の多さに助けられた気がした。

ビルの一角にスペースを設けたCDショップに千夏はいた。

レジのカウンターに立ちながら客が来るたび忙しそうに動いている。

京平は人混みに紛れて千夏に気がつかれないように千夏の働きぶりを観察することができた。

この場で千夏に声をかけたところで、
昨日のように無視されて逃げられるのは目に見えていた。

だから京平は根気よく千夏の仕事が終わるのを待った。
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